大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所 昭和53年(く)26号 決定 1978年9月06日

少年 K・Y(昭三八・四・三生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は、少年作成名義の抗告申立書に記載されたとおりであるから、ここにこれを引用し、これに対して当裁判所は次のとおり判断する。

所論は要するに、原決定には処遇決定に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があるというのである。すなわち、原決定の認定した非行事実は、無免許運転の点を除き全て誤りであつて、(一)少年は原判示1(1)及び(2)の各日時場所においてはシンナーを吸引していない。(二)原判示2の第一種原動機付自転車(以下、バイクという。)を盗んだことはなく、少年は友人のAから借用したもので、同人の物と信じていた。(三)原判示3(1)及び(2)の自転車(合計二台)を盗んだことはない。これらの自転車は友人のBとCがもつてきたものであつて、少年はBの家の物と思つていた。(四)虞犯事件については、家出の点を除き思い当ることがない。以上(一)ないし(四)のとおりなので、原決定の非行事実の認定には重大な誤認があり、これは決定に影響を及ぼすものであるから、原決定の取消を求めるというのである。

よつて、本件少年保護事件記録(広島家庭裁判所昭和五三年少第七〇〇号、第七五一号、第七九七号及び同年少交第一、五九七号)並びに少年調査記録を調査するに、広島家庭裁判所は、本件少年保護事件の第一回審判期日(昭和五三年七月二四日)において、少年を家庭裁判所調査官の試験観察に付する措置をとつたが、その後第二回審判期日(同年同月二九日)において、少年を初等少年院に送致する旨の決定をなし、その理由中で、送致された保護事件のうち、毒物及び劇物取締法違反、窃盗、占有離脱物横領、道路交通法違反の各事件につき、各非行事実を認定するとともに、虞犯事件(家出、喫煙、不純異性交遊等を理由とするもの)については非行事実として認定しないことを明らかにしていることが認められる。したがつて、まず、所論のうち虞犯事件に関する部分は、その前提を欠くものであり、理由がない。

進んで、原決定の事実認定の当否を検討してみると、関係証拠を総合すれば、原決定の認定した1(1)及び(2)(二回にわたるシンナーの吸引)、2(バイク一台の窃取)、3(1)(自転車一台の窃取)及び3(2)(自転車一台の拾得横領)の各非行事実は、いずれも優にこれを認めることができる。すなわち、少年は、取調べの警察官に対してこれらの各非行事実について全面的に自白しているばかりでなく、保護者(父と母)らの在席する第一回審判期日においても、裁判官から送致書記載の各犯罪事実(各非行事実と同一のもの)を読み聞かされた際、事実は全て間違いない旨答えたうえ、各非行につきその動機や経緯、実行の態様などを詳細に陳述しているものであり、その余の関係証拠、とくに、一緒に非行を犯した仲間の少年達の検察官に対する各供述調書や非行を現認した警察官の各報告書なども少年の自白と内容的に一致しているので、これらの証拠を総合すれば、少年が各非行を犯した事実は十分に認められ、原決定の事実認定に誤りはないものである。(なお、自転車の窃盗及び拾得横領については、少年自ら警察官の取調べや審判廷で述べているように、少年がB及びCと一緒に帰宅する途中、三人で、疲れたから自転車でも盗んできて乗つて帰ろうと相談し、その結果、BがD子所有の自転車を窃取し、CがE子所有の自転車を拾得横領したのであるから、少年は、自分では直接盗むなどの行為をしていないとしても、窃盗の共同正犯の責任を免れないものである。)論旨は理由がない。

よつて、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条により、本件抗告を棄却し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 西俣信比古 裁判官 岡田勝一郎 堀内信明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例